どうして死んじゃいけないのか—ドリアン助川×咲セリ対談【前編】

90年代にラジオ番組で若者から絶大な支持を得たドリアン助川さん。原作を書き、樹木希林さん主演・河瀬直美監督で映画化された『あん』がカンヌにも出品され、各国から賞賛を受けました。そんなドリアン助川さんと、『死にたいままで生きています。』の著者・咲セリさんの対談が実現! アルコール依存、性依存、自己否定……人生の「真っ暗闇」を経験したお二人だからこそ語れる、「生きるってどういうことなのか」。悩みを抱える人たちに寄り添うような、お二人の人生哲学を語ってもらった対談です。

赤裸々に語ることへの迷い

咲セリ(以下、咲) 今日はドリアンさんの事務所をお訪ねできて、とてもうれしいです。

ドリアン助川(以下、ドリアン) いえいえ、訪ねてくださってこちらこそありがとうございます。

 母がドリアンさんの大ファンで、うらやましがられました。もう、ついてきちゃうんじゃないかという勢いで(笑)。「あん」の映画もすごく感動しました。観たら久しぶりにドリアンさんの原作を読みたくなって、「あん」を開いたんですよ。ぱらっと開いたところが、千太郎さんが徳江さんの療養所から帰ってきて熱をだしてしまうシーン。わたし、あそこがすごく好きで。千太郎は自分のなかに差別心はないつもりだったけれども、やっぱり不安になるんですよね。人間ってわからないものに対する不安感があって当然だなって。


あん(ポプラ社)

ドリアン ありがとうございます。それでいうとね。咲さんの本、『死にたいままで生きています。』は、すさまじい日々を生きてきたんだなあとありのまま受けとらせてもらったし、この本はたくさんの人を励ますだろうなって思いました。なにより感服したのは、よく本当に、ぜんぶ書いたなって(笑)。

 はい。書きましたね(笑)。

ドリアン ふつうはここまで踏み出せないよね。援助交際とか、風俗で働いていたこととか、やっぱりちょっとオブラートにつつむかな。本の中に、咲さんが性依存の経験者としてテレビ番組に出演するところがありますね。それをお父さんが知って、「自分も見てもいいのか」って聞かれるところ。そのとき、咲さんはものすごくドキドキしたって書いてあったけど、読まれることに対する、そういう気持ちもあるわけですよね。

 あります。いまでもあるんです。

ドリアン でも、この本にはぜんぶ書いてある。書く勇気というか、その戦いっていうのは、どうやって乗り越えたの?

 なんか、書き出すと止まらなくなってしまうんです。たぶん、書くことで自分を開放しているのかなあって。そこでバランスをとるみたいなところがあります。でも、いざ本になるってわかってからは、やっぱり……(笑)。今でも、父は読むのかな、読んだときどんな気持ちになるんだろうって思います。風俗に勤めていたことなどを書くことは、夫はどんな思いだろうって思っていました。でも原稿は最初に夫に読んでもらっていて、「ここはわかりにくいから、こうしたら」って、アドバイスしてもらいました(笑)。わりと淡々と。なので、考えてしまうのは親に対してですね。もしかしたらわたしに愛情をかけてくれていたかもしれない父のこと、あまりよく書いてないので。ここに書いてあることは、わたしのなかでは事実なんですけど。読んだら父がまた傷つくんじゃないか、そう思うとやっぱりつらいです。

ドリアン そうかあ。そうだよね。それにしても旦那さん、むちゃくちゃ優しい人だね。咲さんが雨の日に集合住宅の上から飛び降りようとした日のことが書かれていたけど、死んじゃったかもしれないって待ってたときの旦那さん。読んでいて、ほんとうにこの人は優しいなって思いました。

 読者の方から、よくそう言われます。今はわたしより夫のほうの応援団のほうが多いと思います(笑)。

「どうして死んじゃいけないのですか」

ドリアン でも、そういう人と出会えたのも、きっと咲さんが人間社会というか、人間関係のなかだけで生きていないからかもしれないね。これは自分の話になっちゃって悪いんだけど、おれ、仕事がぜんぜんない時期があったのね。子どもの学費も払えないくらい、もう発狂しそうな頃(笑)。ほんとに叫びそうになりながら、多摩川の土手を自転車で走ってました。そしたら、コスモスがわーって手を振ってくれてたんだよ。「あなたは人間社会ではダメだったかもしれないけど(笑)、わたしたちは応援してますよー」って。これ、勝手な妄想ですよ。でもね、そう感じたの。それは人間も、花も猫も鳥も同じだって感じているからこそ成り立つ感じ方なんだよね。咲さんも、似てるところ、あるよね。

 はい。似てると思います。

ドリアン 道に倒れてる猫を拾ってきたり。「あいちゃん」っていう病気の猫を最後の最後まで面倒みて、看取ったりね。そういう感覚で生きているから、旦那さんみたいな人が現れたのかもしれないってね。だけどあれじゃない、こういう本を書いて、表紙の写真はブロマイドみたいだしさ(笑)、読者からいろんなメッセージがきてるんじゃないですか?

 そうですね。前に出させてもらった本のときって、「いますぐ死ぬのでうちの猫をお願いします」っていうのが多かったんですけど。でも、今回の本は、「『死にたい』って言ってる友人のことを理解したいと思って買いました」とか、「大学の先生に悩んでいるって言ったら、この本をもらいました」とか、自分の身近な人が苦しんでいるときに何かしたいって思って読んでくださっている方が多くて。そのことが、すごくうれしかったです。それからやっぱり多いのは、自分も生きることがしんどい、っていう方ですね。死にたいとか。ドリアンさんは、ずっと「生きる」っていうことを書かれていると思うのですが、きょうはそんなこともテーマにお話しできたらなと願いつつ、おじゃましました。先日、新聞の取材のときに聞かれたんですけど、「どうして死んじゃいけないのですか」って。ドリアンさんなら、どう答えますか?

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死にたいままで生きています。

咲 セリ

思春期の頃から自傷、自殺念慮、依存に苦しみ、強迫性障害、境界性パーソナリティー障害、双極性障害などを抱え、「世界でいちばんいらない人間」だと思っていた「私」が、ありのままを語ります。

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コメント

temporubato_yh CAKESよりシェア>> https://t.co/TDVx9yidnb    ~以下引用~  ... http://t.co/YIanXyDXQp 3年以上前 replyretweetfavorite

0501Can #どうして死んじゃいけないのか #ドリアン助川 #咲セリ @saki_seri 3年以上前 replyretweetfavorite

Atack20 荘子の万物斉同と、いかに自分で自分を苦しめているかを考えさせられました。 3年以上前 replyretweetfavorite

sizukanarudon どうして死んじゃいけないのか ドリアン助川@arlequinTetsuya × 咲セリ@saki_seri 対談【前編】 https://t.co/pDxLnMmog8 7月10日(金)放送『5時に夢中!』 ドリアン助川 http://t.co/oFjw8T61oI 3年以上前 replyretweetfavorite