どうすれば自然界へと通じる道筋を再発見できるだろう?

野生動物たちからのメッセージは本当にもう来なくなってしまったのだろうか。来ているのに、気がつかないだけかもしれない。ラインやツイッターのメッセージをやりとりするのに忙しくて……。人間と自然とが、対等に出会い、混じり合い、交流する場所。それをぼくたちは探し当てられるのだろうか?


 「どんぐりと山猫」なら、きみも絵本などで読んだことがあるかもしれないね。井上が言う「あの明るく楽しい広場」とは、そのお話の中で、山猫からの招待を受けた少年、一郎が訪れ、どんぐりたちの間に起こった争いについての裁判に出席することになる、森に囲まれた「黄金いろの草地」のこと。
 それは、井上の言う、里と山とが、人間と自然とが、対等に出会い、混じり合い、交流する場所。それはどこへ消えてしまったのか、と自問した井上は、「そこを探し当てるため」にこそ賢治の作品を役立てよう、と読者に呼びかける。そうすれば、そこに「きっと辿りつけるはず」だから、と。

山猫からの葉書を受けとるには

 でも、とぼくはふと思うのだ。「山猫からも葉書が来なくなってしまった」と井上ひさしが言うように、野生動物たちからのメッセージは本当にもう来なくなってしまったのだろうか、と。来ているのに、気がつかないだけかもしれない。ラインやツイッターのメッセージをやりとりするのに忙しくて……。

 「どんぐりと山猫」の一郎は、たしかに、かなり変わった少年だ。葉書を見た彼は、うれしくて、うれしくて、「うちじゅうとんだりはねたり」。葉書には、どこへ、どう行けばいいのか、など、ぜんぜん書いてなかったのに、一郎はどんどん山に入り、木や滝やリスに道をたずねながら、とうとう目指す金色の草地にたどり着いてしまう。まるで用意されていたテストを次々にクリアしていくように。

 そこに現れた山猫は、ドングリたちの争いをめぐる裁判で困っていて、一郎の考えをききたい、という。葉書を受けとった何人もの子どもたちのうち、ここにただ一人たどり着いた一郎だからこそ、山猫はこの難しい仕事を頼んだのではないか。

 裁判では、集まってきた何百というドングリたちが、「誰が一番えらいか」をめぐって言い争う。えらいのは、頭のとがっているもの、丸いもの、大きいもの、背の高いもの、それとも、押しっこの一番強いもの?

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弱虫」でいいんだよ

辻信一

私たちの生きる世界では「終わりなき経済成長」をテーマに人々が邁進しています。それをこなすのは大変です。誰もが効率的に働かなければ世界が回らないと思い込んでいます。過剰な世界を支えるのは「強い人たち」です。健康で体が強く、より早く、より...もっと読む

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コメント

Atack20 自分も含めてまったく別のものであるのに、一定の基準で優劣をつけるくせを 持ってしまっていると感じる。 5年以上前 replyretweetfavorite

acorn10103460 ”多様性とは自然の別名と言ってもいいくらいだ。” 5年以上前 replyretweetfavorite