ここで少し、僕自身のマンガ観について話をしたい。
もともと僕は、マンガを分析的に考えたことなどなかった。
アシスタント経験もないまま、見よう見まねで描いてきた。それでもどうにか生計が成り立つ程度には食えていたし、さほど向上心があったわけではない。自分の描きたいテーマで作品を描いて、原稿料から毎月の家賃をきちんと払い、ご飯が食べていけるのなら、それで十分だった。
そんな僕の転機となった作品が、1996年から『週刊漫画ゴラク』(日本文芸社)で連載を開始した『クロカン』である。
きっかけは、連載初期に担当編集者が持ちかけてきた、次のひと言だった。
「三田さん、せっかくやるなら、読者アンケートで1位を獲りましょう!」
僕は耳を疑った。
なぜなら『週刊漫画ゴラク』は、あの金融マンガ『ミナミの帝王』(原作・天王寺大/画・郷力也)が、まさに帝王のように君臨する雑誌で、読者アンケートでも不動の1位を守っていたからである。
いくらなんでも「帝王」の牙城を切り崩すなんて、無理に決まっている。僕は懸命に拒否したのだが、編集者は「三田さんなら大丈夫です。一緒に1位を狙いましょう!」の一点張りで、まったく譲る気配がない。
そこまで言われれば、こっちだって意気に感じてくる。意を決した僕は、『ミナミの帝王』を舐めるようにして読み込んでいった。
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