インターネットの発展で、地方の子でも将棋が強くなる環境が整った
—— 若手の実力派棋士・豊島将之七段が、将棋会館での実戦研究をやめて、自宅でのコンピュータを使った研究をメインにしていると聞きました。
羽生善治(以下、羽生) 最近は、奨励会員 ※ もそういう人が増えているようですね。もうそんなに驚くことではない、と思っています。
※奨励会員:日本将棋連盟のプロ棋士養成機関に所属する人
—— 将棋界でのコンピュータの活用についてどう思われますか?
羽生 チェスの世界も、コンピュータを使った研究がどんどん進んでいるので、将棋もそういう方向に進んでいくのではないでしょうか。時代の流れですね。
—— 羽生さんは、ある局面について詰みがあるかどうか、将棋ソフトで調べたりすることはありますか?
羽生 私はないんですけど、観戦記者 ※ の方から、将棋ソフトで検討させた手について質問されることがあります。だから、間接的には使っていることになるのかな(笑)。
※観戦記者:タイトル戦などの対局について、観戦記を書く記者
—— えっ、どういうふうに聞かれるんですか?
羽生 直接そう言われるわけじゃないんですけど、明らかにソフトで検討したであろう手について、「この局面で、こういう手があったのではないでしょうか」と聞かれる感じですね。たしかにそうだなと思うので、「その通りだと思います」と答えます(笑)。まあでも、コンピュータとインターネットの発展で、情報の地方格差が小さくなったのはよいことですよね。以前は、将棋が好きだけれど、地方に住んでいて対局相手がいないから強くなれなかった、という子どもがたくさんいました。
—— 今ではそういう子たちが、ネットの対局で強くなれる。
羽生 だから、あとはその環境で一生懸命練習できるかどうかですよね。本人のやる気次第で力をつけられるという意味で、公平な世の中になってきていると思います。一方で、スマホのアプリは楽しいものもたくさんあるから、そちらに時間を取られてしまうという誘惑もあるでしょうね。だから、今の子どもの方が恵まれているかというと、一長一短、というところかなと思います。
—— ネット対局もそうですし、過去の棋譜などの情報も簡単に手に入るようになって、より勉強しやすくなっていますよね。
羽生 いまは情報がありすぎて、手に入れた知識を活かしきるのが難しいくらいですよね。例えば進路選択でも、いろいろな情報があったほうがいいという意見があります。でも、知らないほうがいいこともあると思うんです。知ってしまったら挑戦できない、目指せないものというのもあるのではないかと。
—— 例えばどういうことでしょうか。
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