「ふつう」になれない苦しみ
この本を書こうと思ったきっかけは、見ず知らずの人がくれた一通のメールでした。
「死にたいと思うことがあります」から始まるそれには、20歳になる女性の胸のうちがつづられていました。
小学校からずっと不登校を続け、今、友達も、仕事もないと彼女は語ります。
「本当は、ふつうのしあわせを噛みしめたい。だけどそれは、自分には夢のような話なのです」と。
「ふつう」―私はずっと、この言葉に苦しめられてきました。
物心ついた時から「ふつうじゃない」と言い表され、それを「個性的」という褒め言葉と受け取ることはできませんでした。
「誰もができること」ができない、「ふつう」にも届かない「おちこぼれ」。
「心の病気」になってからもなお、「ふつう」という概念は、つねに私を支配しました。
治療がうまくいかなければ、「私は、ふつうの病人としても落第した」と治らない自分を責めました。
そんな私が、自分以外の「ふつうじゃない」と呼ばれる人たちと出会ったのは、NHKのテレビ出演を通じて。
その日、「心の病気」だけでなく、「発達障害」、「セクシャルマイノリティー」、「HIV」、「依存症」、「筋ジストロフィー」の面々が一堂に会し、奇しくも誰もが口をそろえて言ったのです。
「ふつうになれない自分に、劣等感を抱いた経験がある」と。
だけど、そう話す彼らの笑顔は、苦悩を経験したからこその、強さとやさしさで溢れていました。
何かをきっかけに「ふつう」を離れた人は、つねに自分に挫折感を抱えてしまいます。
「ふつうのことができないような自分は、世界で一番、いらない人間」と。
そこから、なんとか抜け出そうと必死になった結果、自傷や、依存、暴力や、心の病気など、生きづらさに飲み込まれることもあります。
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