『今週末、会えないかな? コウスケ』
三年付き合って、事実上半年前に振られた男からのメッセージだった。
コウスケと再会をしたのは、三年半前の小学校の同窓会。同じクラスになったことはあったが、あまり話したことはない。大人しかった美沙に比べて、コウスケは目立つ存在だった。小学校の頃モテた男子と大人になって再会をすると、残念な姿に変貌しているケースがほとんどだ。事実、学年一モテた池田くんは80キロオーバーの巨体となり、見る影もなかった。しかし、コウスケは違っていた。爽やか少年がしっかり爽やか青年に成長していた。美沙はコウスケを見た瞬間、心臓が跳ね上がったが、話しかける勇気もなく遠くからただ見つめていた。すると、
「整とん係の浅井さん、隣いい?」コウスケから美沙の隣にやってきた。美沙は混乱するもコクリと頷き、
「黒板係の菊池くん、どうぞ」と返した。
「はは、覚えててくれたんだ」コウスケは目尻にたっぷり皺をよせて微笑んだ。笑うとなくなる目が美沙のツボだった。
「それはこっちのセリフだよ。私のこともだけど、整とん係なんてよく覚えてたね」
「覚えてるよ。だって、浅井さんが整とん係になってから、クラスがほんと整とんされたもんな。別に整とんなんてやらなくてもバレない係だったじゃん? だからその前のやつらは何もしてなかったけど、浅井さんになってから本棚とか綺麗になってさ。“あいうえお順”になったからめっちゃ見やすくなったし。クラスの机と椅子も帰りに綺麗に整列させてたでしょ。真面目だなぁ、って思ったんだよね」
真面目……か。真面目と言われて嬉しいと感じる年齢はいくつだろうか。少なくとも、美沙はまだそうではなかった。でも、覚えていてくれたことが単純に嬉しい。
「なんか恥ずかしいけど、覚えていてくれてありがとね」
「覚えてるよ。あれからちょっと浅井さんは気になる子になったからね」
「で、でも菊池くんはサキちゃんと両思いだったよね」火照る顔を必死に隠しながら慌てていう。
「はは。両思いとかって、ほんとウブだよな。確かにサキのこと好きだった。なんかわかんないけど、浅井さんはそういうのとは違う枠で気になる子って感じだったんだよね」
「そっか」なんだかひとり舞い上がった自分がバカみたいで、美沙はその場から逃げ出したかった。
「でもいまは……恋愛枠で気になるかも」コウスケは照れた表情でうつむいた。
それから二人でご飯に行って、付き合って、そして、別れた。