出世しても嫉妬されないためにできること
齊藤勇(以下、齊藤) 出世したら、基本的に社内で嫌われることが多いと思ったほうがいい。周囲から賞賛されるのではなくて、みんなから嫌われる……。同期の中から自分一人だけ出世をしたら、「アイツは皆を出し抜いた」「生殺与奪権を持たれてしまった」と嫌がられるのが常。これは単純に、嫉妬です。会社の中にいると、自分より上になった人に対しては嫉妬心を持ってしまい、それで自ずと嫌いになってしまうことが少なくありません。
高城幸司(以下、高城) 出世した人の嫌われ方の一つは「疎まれる」ことだと思います。疎まれるというのは、たとえば暴れん坊将軍の徳川吉宗が庶民の中に入ってきて、一緒に庶民のものを食べると言われても、やはり庶民から見たら扱いに困るというようなイメージ。人事権のある部長が、「何でも忌憚のない意見を言ってくれ」と言ってきても、言えるはずがありません。
私がリクルートで事業部長になったときに、同期の飲み会に行ってもなんだか居心地が悪いわけです。お前がいるから本音でしゃべることができない、という話が出てきたり……。要するに彼らは愚痴も言いたいし、文句も言いたいけれど、こいつはそれを何かに使うんじゃないかと思ってしまう。出世した瞬間にお互いにレイヤー(役職の階層)が変わるので、持っている情報や世界観が違ってくる。よく、経営者は孤独だといいますが、孤独なのは当たり前で、嫌われているという見方もできます。
齊藤 経営者は孤独にならざるを得ない。その孤独にどう向き合うかが、経営者にとって一番難しい。周りにイエスマンが多く、その人たちに聞いても答えは出ない。社員のところまで下りていって飲んでみんなの気持ちを聞くとしても、実際には違和感を覚える。トップとして会社の舵を切っていくときは、孤独に耐える心構えが必要だと思います。
デキの悪い上司に見せる演技は必要か?
高城 実際に出世した人はプライドが高い傾向にある。人より高い立場にいるということは、できる人間でありたいと思うので、ミスを認めたくないし、自分の非のあるところを隠そうとする。苦手なことがあったとしたらやらないとか……。でも実は、周りはわかっていて、すべてに万能で何でもできる人なんていないわけです。だから「上司もそれなりに苦労している、仕事をしていろいろ悩みもあるんだ」という部分を少し見せることが必要です。
たとえば私の知り合いの社長で、社員が辞めたときに泣く人がいます。断腸の思いで辞めて悲しいとワンワン泣くのですが、それは演技。本当は思っていないけれど泣きを見せる。そういった感情の起伏などが見えると、その気持ちが共感を生むんですね。経営者との距離が近づいて、嫌われることは減りやすくなる。
齊藤 人間味ですね。そういった部分、日本人は好きですよね。
高城 確かに好きです。
齊藤 パーフェクトな人ではなく人間味がある人でないと好きになれない。自分も社長も実は同じだと思っているから、「やっぱり社長でも弱みがあるんだ」と同感できないと安心できない。多少の演技力、つまりはコミュニケーション力によって相手の心に近づく。
共感や同情を呼んで、「なんだ、自分のほうが上なんだ」という気持ちを持たせる。人間関係で「自分が下」であると、精神的に疲れたり嫌になったりしがち。それよりも自分よりデキの悪い人と一緒いたいという気持ちが強く働きます。「あの人には実は欠点がある」という人が、日本の企業では「人間味のある」上司・経営者となる。これは出世したときに嫌われない重要なポイントです。
高城 その中でも許容範囲を決めている人は重要です。たとえば人間味があるといっても、毎日飲みに行って、朝真っ赤な顔をして出社するとなると、人間味どころではなく駄目な人になってしまう。そうではなく、数字に強い優秀な人でも、「実はプライベートでは鉄ちゃんで、ストレス発散で汽車を見に行く」とか「甘いものが好きで、週末は羊羹食べるために川越まで行く」というように、共感する部分が多くの人の許容範囲の中に収まっていることが重要です。「趣味でゴルフ場買っちゃった」「毎週末クルーザーに」とか言われると、なかなか共感してもらいにくい。
齊藤 レイヤーどころか、「人生も違う」と思われてしまいますね。
高城 周りの人が見たときに共感性を持てる振れ幅があることが大事です。この振れ幅が大きかったり小さかったりしすぎると、下世話な人に思われてしまいます。
※本連載は書籍『なぜ、嫌われ者だけが出世するのか?』(齊藤 勇 著)からの抜粋です。
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