6月第5週〜7月第1週の主なできごと
・大島美幸 出産瞬間の自分撮影(6月29日)
・東海道新幹線放火、新幹線初の「列車火災事故」(6月30日)
・全英テニス、錦織圭が2回戦棄権(7月1日)
・史上初!セ・リーグ全球団が借金(7月3日)
・宇多田ヒカル、第一子出産(7月3日)
『絶歌』は「凡庸で薄いサブカル」
おぐらりゅうじ(以下、おぐら) さて『絶歌』です。初版が10万部で、5万増刷。週刊誌でもテレビでも話題になっています。
速水健朗(以下、速水) 1997年に神戸連続児童殺傷事件を起こした「酒鬼薔薇聖斗」こと元少年Aの本を太田出版が刊行。世間は大騒ぎなんだけど、大手の書店なんかだとわりと控えめにしか並べてなかったりするんだよね。
おぐら 被害者遺族の許可を得ていない出版ということもあって、大手を振って買うのはためらわれる状況ですね。版元に回収を求める抗議文を送った遺族もいました。人知れず購入できるAmazonで1位になるのも納得です。
速水 おぐら君は読んだ?
おぐら 読んでないです。この対談で取り上げることはわかっていたので、渋谷の書店に行ったところ、そのお店では入り口の一番目立つ総合ランキング1位の棚にズラーッと並べられていて。その光景がけっこうなインパクトで、やっぱりちょっと解せないというか、手が止まっちゃいました。で、しばらく店内で悩んだんですけど、結局買いませんでした。速水さんは?
速水 読んだ。もうすでに語り尽くされているので簡単に説明するけど、自分の病状というか、異常性欲の源であったりを自ら精神分析の知識で分析していたりする。あと、過剰に文学的な表現も目立つ。
「月や星のジュエリーで煌びやかにめかしこんだ夜空をバックに、蝉のオーケストラの演奏はいよいよ佳境に入り、夜の底を震わせていた」みたいな。
おぐら だいぶ酔ってますね。
速水 夜の底ってやっぱり震えるんだ。
おぐら 紋切り型というか、もはやメタ的なギャグかと思いますよ。2ちゃんの「中二病だったときに書いた文章を晒す」みたいなスレにあってもおかしくない。
速水 あと、ところどころ引用が入るんだけど、それが村上龍、大藪春彦、ユーミンっていうアラサー世代ではひっかからなそうな作品群が引用されている。
おぐら 僕は元少年Aとは3歳違いでほぼ同年代ですけど、あんまりピンとこないです。むしろ、速水さんの世代?
速水 アラフォーでも微妙。でも俺が一応読んでみたのは、大藪春彦の引用があるって聞いたからなのね。ちなみに、『野獣死すべし』の一説を引用している。狩猟についての描写で、「毛布と一握りの塩とタバコと銃だけを持って」荒野で何ヶ月も過ごしながら、獣を追うような「生命の充実感」こそが快楽であるっていう。
おぐら 自分の快楽殺人に結びつけてですか?
速水 そこを言明しないのが、歯がゆいんだよね。他人事として語っている感じ。大藪の小説って、そもそも倒錯とか猟奇とかの話はないので、なんで彼がこれを読んで引用したのかも、ちょっとわからない。
おぐら サブカル知識の垂れ流しについても批判されてますよね。
速水 ネットで支持されている書評はロマン優光の「薄っぺらい引用、薄っぺらい解釈。ほんとに凡庸で薄いサブカルさんそのものだ」というやつ。俺もこの書評が一番しっくりきたかな。
おぐら 優光さんの解釈では、今の少年Aは治療の結果、怪物ではなく普通の人になったのではないかと。本の内容のくだらなさによって神格化されたイメージが消え去れば、むしろ社会にとっては有り難いと書いています。
速水 一方、精神分析医でもある香山リカは、「元少年は当時もいまも感情のない世界を生きている」と、まったく完治してないと指摘してる。適菜収も『週刊文春』でこれは、「さあゲームのはじまりです」の第二章だって指摘している。世間を騒がせて喜んでるだけだって。
おぐら ネットでは、中川淳一郎さんの書評記事も話題になってました。『絶歌』の編集者が、93年に同じく太田出版から発売されて100万部を越えるミリオンセラーとなった『完全自殺マニュアル』(鶴見済著)の担当だった落合美砂氏であることを指摘し、版元を「外道である」と批判しています。
速水 中川さんのフィアンセが『完全自殺マニュアル』のやり方で死んだという話。それはともかく、太田出版がこの本を刊行した理由って、よく批判されるような金儲け主義だけじゃないんだと思うよ。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。