はっきり言ってオッパイまでは顔なんです!」

おっぱいを開放することこそ、女性の解放である? “美魔女”の存在が発見されるずっと前から、女が熟することを謳歌していた『NIKITA』。芳麗さんは、そんな気風のいいニキータ姐さんの言葉に、何度も膝を打ってきたそう。はてさて、女性のおっぱいはなにが恥ずかしいのでしょうか。
この道20年のベテラン女性誌ライター芳麗さんが贈る“ありふれた女”たちのための教科書です。

 ニキータは声の大きな女性だった。40代とは思えないほど妖艶で、ハイセンスなドレスを身にまとい、エレガントなレストランを我が物顔で闊歩しては、よく通る声であけすけな本音を語っていた。

「コムスメに勝つ!」

 あれは、2004年のこと。彼女が唐突にぶちあげたスローガンに、当時、アラサーだった私は「別に勝ちたくないよぉ」と顔を赤らめながら反論した。本音を言えば、自分はまだコムスメ側だと思っていたのだ。

 ニキータは、隣のテーブルが眉をひそめていることもお構いなし。「だって、いつまでも夢みるコムスメではいられないのよ」とばかりにワイングラスを回し続けている。

NIKITA 2004.11

日本の男は、素人女性の胸の谷間に慣れていない

 “ちょい悪オヤジ” の呼称で一世を風靡した雑誌『LEON』の恋人を想定して、2005年に創刊された『NIKITA』。憧れのロールモデルは、往年の女優ソフィア・ローレンのような豊潤なイタリアンマダム。
 10年前、40歳という年齢は、日本では女を降りる準備を始めるべきお年頃とされていた。“美魔女”の存在が発見されるずっと前から、『NIKITA』は女が熟する季節を謳歌することを先導していた。

 フェミニズム的な戦いよりも、本能のままに消費すること、奔放に恋をすることこそが、新しい女の生きる道とばかりに、煽情的な言葉を語り続けていた。だからって、狙った男のことを艶男(アデオス)とか、自分のことを艶女(アデージョ)って呼ぶなんてアグレッシヴを通り越しておもしろすぎる。

 決して、友だちになれないタイプの年上女だと思ったのに、私は、気がつけば、毎月のように、ニキータの言葉に心奪われていた。中でも、忘れられない至言がある。

『はっきり言ってオッパイまでは顔なんです』

 初めて目にした時は、そのあられもなさに戸惑いながらも「やっぱり、そうだったのか」とひざをうった。何だろう。この問答無用の説得力。
 ページには、外国人女性がざっくりと開いたトップスの胸元に“乳間ネックレス” を煌めかせておっぱいを誇示している。その写真をしげしげと眺めているうちに不思議な高揚感を覚えた。これは、“乳間ネックレス”の宣伝記事である。しかし、女性誌には、時に驚くようなユーモアやフィロソフィが宿っている。
「おっぱいを開放することこそ、女性の解放! 幸せをつかむ術である」というメッセージを私は勝手に読みとった。
※乳間ネックレス:チャーム部分が一直線になっていて胸の谷間部分にまで垂れ下っているネックレスのこと

 本誌が発売されてまもなく、マジで乳間ネックレスを身につけている人に出会った。しかも、仕事場で。ヌーディーなファッションに抵抗がないモードな人や“女のプロ”的な妖艶な女性ではない。どちらかといえば、地味なタイプ。レコード会社勤務、仕事の熱心さには定評のある30代半ばの彼女が、『NIKITA』で見たままの乳間ネックレスを、矯正下着で力いっぱい寄せ集めてロケット巨乳化した胸の谷間に垂らしていた。ボディラメもたっぷりと塗られた胸元は、彼女のシンプルなメイクや控えめな立ち居振る舞いとは、まったくかみ合っておらず、そばにいるだけで、どうにもそわそわしてしまう。
 やはり、日本でニキータになるのは、難しいのか。私はわが事のように胸に手を当てた。

 とはいえ、“オッパイまでは顔”には、その人となりが宿る。たとえば、シャツのボタンを何番目まで開けるのか。
 峰不二子、藤原紀香、壇蜜のように自覚的に谷間を見せる女性は、性的アピールというよりも、「誘惑してア・ゲ・ル❤」というサービス精神にもとづいたビジネスであり、キャラである。
 一方、滅多に胸元を開かない、ぴったりとした黒のタートルが似合う女優たちを思い出してほしい。彼女たちは、女が秘密を持つことの吸引力—日本においては小悪魔よりも清純派、巨乳よりも隠れ巨乳のほうがいまだ一般的に価値が高いことを知っているのだ。


 そもそも、 日本男児は素人女性の谷間に慣れていない。草食系の20代男であろうと、いまだセクハラを自覚できないオヤジだって同じこと。テレビや雑誌で観るプロの谷間、二次元の谷間には欲情できても、素人女性が巷で披露している谷間には、目のやり場を彷徨わせるしか術がない。ある20代の男性は、40代女性の上司が常にスーツのインナーから谷間をモロ出ししていることについて、強い不満を表明していた。曰く「年増の谷間は公害だ!」と。本心なのか、そういうことを言いたいだけなのかはわからないが、それを聞いて胸が痛んだ。

 だから、年を重ねたら谷間を出さないほうがいいと言う話ではない。谷間に色恋の効果はないが、主義・主張、武器にはなる。ある時、清純派、隠れ巨乳と大衆に愛玩されてきた長澤まさみが晴れの映画祭の場で、サイドからおっぱいの輪郭が見える大胆なドレスを着てレッドカーペットを歩いていた。あれは、彼女なりの主張なのだ。
 別に隠しているわけじゃないし、おっぱいだけが自分のアイデンティティじゃないとばかりに。「長澤まさみって意外とロックだな!」と思った。


“おっぱい”と“年齢”は、出し過ぎても隠しすぎても下品になる。

「いつも胸元がゆるくてセクシーですよね(笑)」

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
雑誌が切り取る私たち。—恋も仕事も思いのまま?

芳麗

「出産は人生見直しの大チャンス!」――時代に敏感な新旧の女性誌のキャッチコピーを振り返りながら、女の人生の選択についてポップに語る本連載。この道20年のベテラン女性誌ライター芳麗さんが贈る“ありふれた女”たちのための教科書です。

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

DJ_SHIJIMI こういう女になりたい。。 約1年前 replyretweetfavorite

tamaken0810 『はっきり言ってオッパイまでは顔なんです』 過去記事だけどパワーワードすぎるので発掘報告。>芳麗 @yoshirei0702 | 約1年前 replyretweetfavorite

Mint_Comet クレア、ニキータ、フラウ、これ迄のところ主義主張がはっきりしてるのはニキータだけだな。 2年以上前 replyretweetfavorite

jisama はい、なれてません。おぎしかねないこともあります。 https://t.co/StpckIFIPg 2年以上前 replyretweetfavorite