セックスでしか自分の価値を見出せなくなった私【第3回】

毒親、いじめ、メンタルクリニック難民、依存、自己否定など様々な問題に直面しながら、生きてきた著者。生きる意味を見出せない真っ暗闇からの「生還」を綴った、告白エッセイ「死にたいままで生きています。」の第三回。父から「失敗作」と怒鳴られ続け、「世界一いらない人間」だと思っていた幼少時代、自傷・家庭内暴力で居場所を失った思春期を経た著者が、さらなる闇へ転落していた過程を振り返ります。


死にたいままで生きています。(ポプラ社)

セックスをすれば、生きていてもいい

15歳で家庭に居場所を失った私を待っていたものは、学校での「いじめ」だった。

親の勧めで高校は進学校に入学したものの、当時、金髪だった私は集団の中で浮いた。半年が過ぎる頃には口を利いてくれる人間はいなくなり、陰口やこれ見よがしな嘲笑を受けるようになった。

教室移動も一人。私を嫌う教師からは授業中につるし上げられ、そんな自分を見られるのが嫌で、授業中、トイレの個室で息を殺して隠れていたこともあった。授業終了を告げるチャイムに、救われた気持ちで安堵する自分がみじめだった。

折悪く、その頃から急激にニキビが悪化した。

「なんだそれ、気持ち悪いな」

すれ違いざまに父にそう言われ、入学してすぐにできた彼氏も離れていく。やがて「自分が人に嫌われるのは、すべてニキビのせいだ」と思い込むようになった。

強迫的なまでに洗顔をし、市販の治療薬を、石膏のように塗り固める。顔を動かすたびに、ぼろぼろとこぼれるほどだった。人づてで漢方薬を試したり、皮膚科にも通ったが、効果はなかった。

「若いうちは誰でもそんなものですよ。青春のシンボルです」

病院の誰もがそう言って、真面目に取りあってはくれなかった。

「エステに行けば、治るかもしれない……」

駅のホームに掲げられた大げさな看板を、すがるような思いで見上げる。

その日から、私は親に隠れて禁止されていたアルバイトをするようになった。だけど週末に二日の働きでは、到底お金が足りない。追い詰められた私は、援助交際をするしかないと腹をくくった。

街で配られていたポケットティッシュの裏側に書かれた伝言ダイヤルの番号をプッシュする。「お小遣いが欲しい」とメッセージを吹き込むと、数分もしないうちに複数の男性から返事が届いた。

約束を取り付けた日、ファンシーショップで買った安物のファンデーションを肌に塗りたくり、私鉄駅のロータリーで指定されたモスグリーンの車を探した。

真夏の太陽が照りつけ、滝のような汗がファンデーションを流す。

「私の顔を見て、汚いと帰ってしまったらどうしよう」

不安で心臓が脈打った。

ようやく車を見つけ、私が近づくと、運転席の扉が開いた。30代半ばくらいだろうか。男性の背は低く、禿げ上がった頭頂部には脂が浮いていた。

今から見ず知らずの人に体を売る。だけど私には、嫌悪感も、恐怖心も、まるでなかった。あの家で生きる以上に、怖いことなんて何もない。

車を走らせ、ファミリーレストランで降りる。「好きなものを食べていい」と言われ、私はハンバーグセットを注文した。お代わり自由のサラダバーを、何度も行き来する。家では、酒を飲む父を避けるため、夕食を食べられない日も多かった。いつもお腹が減っていた。

ホテルに着くと、男性はビールを開けた。私はどうしていいかわからず、促されるままにシャワーを浴びた。しばらく備え付けのカラオケを交互に歌い、ほんの少し場が和む。

男性は、私の体から優しくバスタオルをはぎ取ると、抱きしめた。そっと口づけをする。

ベッドに仰向けに寝転がらされると、その上に覆いかぶさり男性は言った。

「かわいいね」

胸が詰まった。

「きれいだよ」

「愛しいよ」

胸が高鳴る。男性は、私の目を見てしつこいほど称賛の言葉を並べた。まるで宝物に触れるように、私の肌を撫でた。

はじめて知った。人間の体はあたたかい。

愛されている。抱き合っているときだけはそう思えた。

「わたしは、いらない人間じゃない」

「わたしは、今、必要とされている」

だから、生きていてもいい―。

その日から私は、学校に行くふりをして、毎日、都心の地下街を彷徨うようになった。決まった本屋で立ち読みをしていると、隣に見知らぬ男性がすっと立ち、値段交渉をしてくる。値段にかかわらず、私は承諾した。

誰でもよかった。お金なんてもらえなくてもよかった。愛されていると感じたい。こんな私でも必要とされていると、一時でいいから噛みしめたかった。


そんな日々への終止符は、突然打たれた。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
死にたいままで生きています。

咲 セリ

思春期の頃から自傷、自殺念慮、依存に苦しみ、強迫性障害、境界性パーソナリティー障害、双極性障害などを抱え、「世界でいちばんいらない人間」だと思っていた「私」が、ありのままを語ります。

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

0501Can #SEXでしか自分の価値を見出せなくなった 3年以上前 replyretweetfavorite

0501Can #SEXでしか自分の価値を見出せなくなった 3年以上前 replyretweetfavorite

shimodakohei 価値とは? http://t.co/IL8A9uBkRv 3年以上前 replyretweetfavorite

sizukanarudon セックスでしか自分の価値を見出せなくなった私 死にたいままで生きています。|咲セリ@saki_seri https://t.co/6Wg0kih6HC 誰でもよかった。 お金なんてもらえなくてもよかった。 愛されていると感じたい。 こんな私でも必要とされていると噛みしめたかった。 3年以上前 replyretweetfavorite